2019年4月8日月曜日

コーディネーターとコンシェルジュ

理事長の中村嘉孝です。もうひとつ、ややこしい話を。

数年前からコーディネーターという職種を導入して、不妊治療中の患者様のご相談をお受けするようにしてきました。

不妊治療というのは、内容が複雑で理解に時間がかかりますし、事務手続きも煩雑、精神的にも苦しくなったりします。それを医学以外の全ての面から総合的にお手伝いするのがコーディネーターの役割です。

一方で、数カ月前からコンシェルジュという職種も導入しました。看護部門、培養室部門など、それぞれの職種から経験の長いスタッフが担当制でご相談に乗っています。

しかし、そうするうちにコーディネーターとコンシェルジュの業務区分があいまいになってきました。また、コーディネーターとして新たに採用するよりも、それぞれの職場で長く働いてきた職員の方が具体的なことをよく知っていることもあり、海外からの患者様を担当する英語チーム、中国語チームの語学スタッフを除き、コーディネーターの新規採用をとりやめました。

今後は、コーディネーターとコンシェルジュの区別をなくし、コーディネーターの名称で統一いたします。

実は、せっかくだから新しい名前をつけようと、アテンダントとかサポーターとか提案してみたのですが、皆から「いい加減にしてください!」ということで却下されました。

ややこしいことで申し訳ありませんが、よろしくお願い申し上げます。


2019年3月31日日曜日

「担任医」と「担当医」


理事長の中村嘉孝です。

ちょっとややこしいのですが、担医と担医という制度を導入しました。

「担任医」というのは、ついこの間まで「担当医」と呼んでいたものです。概ね、主治医のようなものなのですが、他の診療と違って不妊診療では連日の通院が必要で、いつも同じ医師が対応することができません。

しかし、方針は同じ医師に決めてもらいたいと思うのは当然であり、責任をもって治療方針を立ててフォローする医師を指名できるようにしました。途中で他の医師に変更することが可能ですので、いつでもスタッフまでご相談ください。

一方、「担当医」制というのは、診察する医師をご指名いただける制度です。複数の医師が外来をしている時間には、ご希望の医師で予約を取らせていただきます。従来は診療内容別にどの患者様をどの医師が診るかを決めていましたが、これからは患者様から担当する医師を選んでいただくことになります。

もちろん、医師によって専門性があり、対応できない場合もありますので、その点はご了承をください。また、ここの医師のスケジュールの把握など予約がシステム上たいへん複雑になりますので、ヘルプセンターで一括して対応させていただいています。ご面倒で恐縮ですが、ご理解のほどをよろしくお願い申し上げます。

なお、田口医師、船曳医師につきましては、従来通り担任医制度にかかわらず、全ての患者様の対応をしているため担任医の指名制度から外れています。特に担任医をご指名にならない場合でも、両名にてフォローをさせていただいています。もちろん、担当医で指名いただくこともできます。

ちなみに私につきましては、「誰も指名しないと思いますから大丈夫です」というスタッフ全員の意見で、担任医制から外されました。

時々、外来に出ることがありますが、せめて担当医に選んでいただけると面目が立ちますので、よろしくお願い申し上げます。



2019年3月15日金曜日

EBMについて その9

子どもの頃、正月にいろはかるたで遊んでいて、どうしても意味のわからなかったのが
「犬も歩けば棒に当たる」と「うそから出たまこと」。

「犬も歩けば・・・」は昨年末、酔っ払って電信柱にぶつかり納得しましたが、「うそから・・・」は字義はわかるものの、本当にその意味を実感できたのは2000年前後、ITバブルを目の当たりにしてからです。

デタラメをぶち上げたら資金が集まって、でも色々と手を出しているうちに、どれか当たって本当になっちゃった。そんな感じですね。設備投資が大きいのと商品化のハードルが高いのでITほどではないですが、もちろん、バイオベンチャーもデタラメが多い。

でも、そういう連中がいないと世の中が進まないことも事実。

偉人伝に出てくるエドワード・ジェンナー。牛の膿を植えつけるとは悪魔の所業と激しい非難を受けながらも、自らの息子に種痘を試すことで効果を証明、天然痘の厄災から人類を救いました。「近代免疫の父」と呼ばれ、その原理によって今も、数多くのワクチンの開発が続いています。

だけど・・・、実際のジェンナーって少し違うらしい。「ジェンナー印の万能薬」みたいのを売り歩いたり、まあまあ怪しい人物だったみたいです。

命にかかわることだから軽々には論じることはできない。それは私もそう思います。でも、EBMを主導する医学界がトンチンカンなんですよね。どうでもいいNIPTで大騒ぎして、一方、どう考えてもヤバい某社の臨床研究はあっさりOKしてみたり。

前にもお話した通り、不妊にもデタラメの治療がたくさんあります。私は自分がデタラメだと思うものは、患者さんにもそのまま「デタラメだ」って言いいます。でも、患者さんはネットで探したでっち上げの文献とかを信じてるんですよね。言っても、聞いていない。どうしても、やりたいと言う。

以前は、「じゃ、そこに行ってください。私はデタラメは嫌ですから」って言ってたんですけど、最近は心も体も丸くなったので、そんな意固地は言わないようになりました。

もちろん、侵襲性があったり、強い副作用があったり、リスクが高いのは絶対にダメだけど、たいした害がないなら、試しにやってみたっていいですよ。もちろん、私が間違ってるのかも知れないし。


いずれにしても、妊娠してくれたらそれでいい。「うそから出たまこと」、そんな風に私は思うようにしています。








2019年3月14日木曜日

EBMについて その8

さて、「お前はどうしてそこまでEBMにケチをつけるんだ」とお怒りの方も多いと思います。「EBMは善意でやってることじゃないか」と。

確かに、EBMにはデタラメな治療を懲らしめたい、っていう正義感が根底にあります。でも、そこが一番の問題だと私は思うのです。確率論を持ちだしてギャンブルを諌めようとするのと同じで、科学の客観を装いながら、その実、自らの倫理感を押し付けていると思うのです。

またEBMは、統計をとるための中央集権的な機構を求めます。日本産科婦人科学会が典型ですね。

独善的で権威主義。それがミッシェル・フーコーの「生ー権力」を想起させるので、EBMファンの皆さまには申し訳ないけど、私はEBMを好きになれないのです。

フーコーによれば、近代以前の国家権力のあり方は刑罰による禁止、つまり、死刑によって生を奪うことで法に従わせていたが、逆に、それ以外は放任だった。ところが、近代に入って公衆衛生、教育、福祉など、生に介入することが国家権力の形になった。そして、その最も強力なツールが統計である、としています。

もちろん、デタラメな治療やインチキの健康商法で被害が後を経たないのはわかります。

実際、不妊治療の領域でも、新しい治療法のほとんどがデタラメ。これは間違いないです。だけど、これまで見てきたようにEBMが本当にデタラメに対抗できるかというと、はなはだ疑問。

統計で有意差がなくても、この個人になら効く、というのを否定することはできないし、そもそも統計自体が何とでもいじれる。

実際、前の投稿で指摘したところだけじゃなくて、他にもデタラメの論文と学会発表で日本中から患者を集めているクリニックを知ってます。だけど、むしろそういう人たちの方が学会で役員してたり、EBMとか平気で言うんですね。

だから私は、論文や学会でどれほど優れた成績が発表されようが、どれほど「エビデンス」が出されようが、自分がおかしいと思う治療、デタラメだと思う治療は患者さんに勧めません。逆に、EBMが好きでない、と言ったって本当に信じるべきと思うものは、もちろん採用しています。

だけど・・・、妙なこと聞いていいですか?

本当に『デタラメ』って撲滅しちゃっていいんですか?






2019年3月13日水曜日

EBMについて その7

大学病院をクビになり、ある小さな病院に勤めているときでした。病院といっても名ばかりで、実質的には高齢と二人だけ。でも、分娩、手術から体外受精までなんでもやる。さすがに長く開業されているだけあって大繁盛で、腹腔鏡手術をしている横で分娩が始まるなど日常茶飯事。野戦病院さながらの忙しさでした。

その頃、ある著名な不妊治療医が開発した、驚異的な妊娠率を誇る治療法がありました。

その方法を、なかなか妊娠しない患者さんに試してみよう用意をしていたら、院長から部屋に呼ばれ、やめておいた方がいいと思うけど、と言われました。

私は、驚きました。不妊治療の第一人者の医師が、海外の一流誌にも論文を寄せ、学会でも招待されて講演をし、多くの大学教授が名を連ねる教科書にも大きく紹介されているのです。

私も、当時は血気盛んだったんですね。自分の不徳の致す所とはいえ、小さな個人医院に身を寄せながら、最先端の知識には遅れをとるまいと意気込んでいたのです。インターネットの無料論文検索などなかった頃ですので、自腹で年に100万以上払い、海外の抄録検索CD-ROMを毎月購入、文献複写サービスで必要な論文を読んでいました。もちろん、その治療法も多数の論文を検討した上のことです。

そう院長に質すと、こう返事が返ってきました。

「いやね、彼は、昔から嘘つきなのよね」

「え?」

その後、その治療法はいつの間にか消えてなくなりました。

EBMでは対抗できない人間力を知るのに、我ながら、随分と時間がかかってしまったように思います。





2019年3月12日火曜日

EBMについて その6

もう一度、確認します。

AKBとNMBが100回じゃんけんしてNMBが20回余計に勝った。

もし、AKBもNMBもじゃんけんの実力に違いがないとするなら、そんなことは計算するととても低い確率でしか起きない。

だったら、NMBの方がじゃんけんに強いって言っていいよね。

でも、どれくらい低い確率だったらOKなのでしょう。実は、何%で線引きするかは恣意的に決めるのです。

あまりにユルいと何でも「一応、有効」ってことになるし、キツいと本当に効いているのに「ダメ」といわれてしまいます。そんなわけで、なんとなく有意水準5%というのがよく使われます。

でも5%って微妙ですね。間違ってる可能性は5%と言われたら僅かな気がしますが、逆に、20分の1は間違ってる、ということ。

つまり本当は同じ実力なのに、じゃんけん大会を20回やったら、一回は間違った結論になってしまう、ということです。

じゃんけんを研究している研究者がいるとします。

以前の大会を観ていた研究者は「やっぱり、じゃんけんに強い弱いなんてないよな」と帰っていくのですが、その大会を観た研究者は大急ぎで論文を出版するでしょう。

手掌及び手指を用いた競技におけるNMBのAKBに対する優位性について』

これが統計の「出版バイアス」と呼ばれるものです。他にも、自己選択バイアス、報告バイアス、要因予知バイアス・・・などなど。

また、「外れ値」の問題もあります。

AKBの平均年齢を計算しようと、メモを見ながらメンバーの年齢を順番にエクセルに入力していると、38才という数字が・・・。
「これって、何かの間違いだよね」
ということで、これは無かったことにして入力しません。

「捏造じゃないか!」と思われるかも知れませんが、機械の読み取りの不具合など、さまざまな原因があり、除外しなければならないデータが出てきます。何もかも一からやり直すという訳にはいかないのです。

でも、何が「外れ値」なのかは、やはり恣意的に決めます。厳密科学ではなく、多様な個体を対照とする生命科学、とりわけ、実際の患者を対象とする医学の分野では、どうしても「ごまかし」の入る余地が大きいのです。





2019年3月11日月曜日

EBMについて その5

「死ぬまでに乳がんになる確率は12人に1人って、私は大丈夫でしょうか?」

そう外来で聞いてきた患者が男性だったら、たぶん、こう答えるでしょう。

「お大事に」

もちろん男性の乳がんもありますが、12人に1というのは、もちろん女性についてのこと。そんな馬鹿げたことを聞く人がいるものか、と思われるでしょう。
不妊外来で一番よく聞かれ、一番困る質問が「妊娠率はどれくらいですか?」

ご存知の通り、18才と48才では大きな違いがあります。年齢層によって確率が違うのですね。

そうか!

というわけで、「層化」して条件を合わせたら、各年齢層での確率を知ることができますよね。でも、妊娠率に影響を与えるものは、それだけじゃありません。子宮筋腫や内膜症が合併していると妊娠率は下がります。

占いをしてるんじゃなくて科学なのですから、もっと条件を加えて、より精度の高い確率を算出しないといけません。

年令、性別、身長、体重、仕事、食生活、既往症・・・・

どんどん、正確な確率に近づきます。

性格だって治療に関係することもあるでしょう。調べておいた方がいいですよね。

「人一倍、気を使う方だ?」
「はい」
「気丈に振舞っているけど、本当は寂しがり屋?」
「はい」
「だけど、あなたの本当の魅力に周りはまだ気づいていない?」
「それって、もしかして・・・・」

そう、あなたのことです。

最も科学的な答えを求めて、詳細に前提条件を付け加えていくと、最後はたった一人の人間、あなた自身になってしまうのです。もちろん、そこには統計は存在しません。