2015年3月6日金曜日

オス駆動進化説

理事長の中村嘉孝です。

最近の生物学の本を読んでいると、「Y染色体は消失する運命にある」とか
「クローンができるようになったら、子どもを産む女性は必要だけど男は
必要なくなる」とか、男性としてはずいぶん肩身のせまい思いがします。

不妊治療の分野でも、残念ながら女性に比べて男性のできることは少ない
のです。男性不妊治療のことを英語でアンドロロジーというのですが、
アンドロロジーを熱心にする意味があるのか」ということが、海外の
学会でもよくトピックスになっています。

極端なことをいえば、一匹でも精子が見つかれば顕微授精(ICSI)をする
ことができます。ですので、逆行性射精の場合の尿中精子回収や無精子症の
場合のTESEなどを別にすれば、はっきりとした効果があるわけではありません。

もちろん、ご主人が奥様だけに負担をかけることを申しわけなく感じ、
できるだけの事をしたい」と思われるのは当然ですし、当院でも積極的に
男性不妊外来に取り組んでいます。しかし、そうして治療をがんばって、
たとえば精子の運動率が30%から40%に増えたとしても、さほど治療には
違いがないも事実です。

精子が少なかったり、運動率が悪かったりしても、女性の手を借りなければ
ならず、なかなか男性は女性に頭が上がらないのですが、先日読んだ生物学の
本におもしろいことが書いてありました。

「オス駆動進化説」というもので、進化をすすめるのは精子の方だ、という話
です。細胞分裂のときにDNAがコピーされます。生まれたときから数が決まって
いて分裂しない卵子とちがって、精子は次々と細胞分裂によって作られます。
ですので、DNAコピーのときにミスが多くなるのですね。ミスいうと聞こえが
悪いですが、DNAが変わるから進化であって、女性ではなく男性が進化の原動力
となっているのです。

男性としては、少しは鼻が高い話だと思ったのですが、よく考えてみるとそうで
もなさそうです。うまくいけば「進化」ですが、DNAの配列が変わることで病気に
つながる場合も出てきます。年齢が高ければ、精子も分裂をより多く繰り返して
きた、ということです。生殖と年齢といえば、どうしても卵子の染色体のこと
ばかりが話題になりますが、じつは加齢によって精子のDNAも影響を受けているの
ですね。

今、進められている着床前診断はaCGHといって受精卵に染色体レベルでの問題が
ないかどうかを調べるものなのですが、近々、次世代シーケンサー(NGS)で
すべてのDNAの配列を調べるようになるでしょう。そうすると、染色体レベルの
異常だけではなく、遺伝子レベルでの変異もわかるようになります。しかし、
はっきり病気ということがわかる変異はともかく、はたしてその変異は異常なのか
進化なのか、頭の悩ましい問題になりそうです。


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