2016年2月16日火曜日

エデュケーション・センターをオープンします

理事長の中村嘉孝です。

昨年末のことですが、ホリエモンが「寿司職人になるのに10年も修行するのはバカ」と発言して物議を醸していました。相変わらずの放言で、人をバカ呼ばわりするのはいかがかと思いますが、一面、真実だとも思います。実際、たいした修行をしていないのに、すぐに自分の店を出して有名店になる人もいます。できれば、そういう要領のいい人生を送りたいものだと、私もつくづく思います。

しかし、本当に要領がすべてなのでしょうか。弊院でも胚培養士などは長い研修を行っています。開院以来、十数年に渡ってその研修をみていると、必ずしも要領のいい人が上手くいくわけでもないことが、私にも分かってきました。要領が悪くてホリエモンに「バカ」と呼ばれようが、長年実直に修練を重ねた人の方が、技術のみならず管理も含めて、よりレベルの高い仕事をできるようになっています。

飲食店のことはよく知りませんが、やはり10年も修行を続けていると食材の流行り廃りや景気の波もあるでしょう。調理技術だけでなく、仕入れ、店舗管理から接客まで、店主がどう対応するのかを真横で見続けることは、かけがえのない経験だろうと思います。

しかし、もっと言えば、それはもう実務のレベルの話ですらないのかも知れません。愚直に信じることを続けることは、人を遥かに高い精神の地平に立たせるのでしょう。ただ無心に俎板に向かい包丁を引く職人の姿を見ると、精神論の嫌いな私でも、素直にそう思えます。

芥川龍之介に『仙人』という作品があります。

ある田舎者が、20年ただ働きをしたら仙術を教えてやると騙されて医者の家に奉公する。年季が明けて困った医者は、嘘の露見せぬよう男を葬り去ろうと、庭の松のてっぺんに上らせ、両手を離させる。しかし、男は宙に浮いたまま。「おかげ様で私も一人前の仙人になれました」と丁寧にお辞儀をして、雲の中へ消えていく。

そして、この短編は、こう結ばれています。

「庭の松は、ずっと後あとまでも残っていました。何でも淀屋辰五郎は、この松の雪景色を眺めるために、四抱(よかかえ)にも余る大木をわざわざ庭へ引かせたそうです。」

淀屋橋にその名を残す豪商で、奢侈を極めた辰五郎が、松を眺めつつ「果たしてそんなことがあるものか」と仙人になった男に思いを馳せる。俗物であってもそこが大旦那の風格で、ホリエモンには見習ってほしいものです。

さて弊院では来月、生殖補助医療技術のエデュケーション・センターをオープンします。実際に体外受精で使う機器を一式用意して、マウス卵、ハムスター卵を用いた教育・訓練を行います。これによって、より効率的に高水準のトレーニングを新人の胚培養士が受けることができるようになります。また、新規の技術の導入も、より確実に、よりスムーズに進めることができるでしょう。

4月になれば、また胚培養士を目指して新卒が入ってきます。大学院の研究で顕微授精をしていた人もいますし、マニピュレーターを扱うのは初めてという人もいます。器用な人も、そうでない人も、要領のいい人も悪い人も皆、安心して臨床の現場に配属することができるまで、エデュケーション・センターでしっかりと研修を行う予定です。しかし、本当に伝えたいことは単なる技術の習得ではありません。勤勉実直にトレーニングを重ねることで心技一体となり、真に医療職にふさわしい姿勢を身に付けてもらうことを心から願っています。














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